出会いがあれば別れもある、というのは使い古された言葉ですが、どのような企業にも必ず起こり得ることです。縁あってイードに入社後、自らがより活躍できる新天地を見つけたOB/OGを尋ねる本企画、「イードのソトウチ」。
第三回は、レスポンス・RBB TODAYという、イードが運営する看板メディアの編集者として活躍した北島友和さん。持ち前の編集力・企画力を存分に発揮し、10年間イードを支えてくれた北島さんに「イードの内側」、「外から見たイード」、「メディアで働く楽しみ」を伺いました。
※新型コロナウイルスの感染防止に伴うテレワーク実施により、本インタビューはテレビ会議ににておこないました
—北島さん、本日はよろしくおねがいします!まずは、北島さんのことをお教えいただけますか?
北島さん:編集プロダクションでの4年の業務経験を経て、イードで10年お世話になった後、現在は株式会社インテグレートというマーケティング会社の戦略コンサルティング部でプロジェクトマネージャーをつとめています。業務としては、いまの事業や経営に課題をいだいている方々に対して、新しい事業価値・企業価値を再定義して、それを実行に移していくまでの支援に携わっています。
こう言うとすごくざっくりしていますが、要は新しい事業をどう作っていくか、今ある事業をどう立て直していくか、ということを、①戦略構想、②事業計画、③事業設計、④立ち上げ支援、⑤運用支援といういくつかのフェーズに区切ってお手伝いするという感じです。
お手伝いをする範囲は、①戦略構想と②事業設計までのこともありますし、逆に④立ち上げと⑤運用を支援してほしい、という話もよくあります。その場合はコンサルタント自らが手を動かすということではなく、パートナーを連れてきたり、ディレクション業務を通じてクライアント社内のメンバーにHOWをインストールする、みたいな感じですけどね。
昨今の人手不足や働き方改革の時勢を反映してか、自社では適当な人材がいない場合の人的リソース補充目的とか、あるいは将来の幹部候補を育てる目的でラーニングさせるという目的もあって、自分たちのようないわゆるコンサル業への需要は高まりつつあるというのが現状です。
業種で言うと、メーカーから商社まで幅広くお声かけいただいていますが、メディア系の事業会社もいくつかお手伝いしました。
—メディア出身の方がメディア企業のコンサルをお手伝いする、というも不思議な感じがしますね。その他、メーカーへのコンサルにも、イード時代の経験は生かされていますか?
北島さん: メディアと言っても、イードのようにWebに軸足を置いている企業と、新聞やテレビなどのいわゆる「4マス」系とではビジネスモデルもカルチャーも全く異なります。ご存じのように、新聞・雑誌やテレビ系のメディアも今はWebを含むデジタル領域で収益を成り立たせるかは喫緊の課題になっていますので、デジタルメディアをグロースさせた経験やノウハウは重宝がられます。
それに加え、コンサルというと、事業構想や設計は得意ですが、それを具体的な施策に落とし込んで実行していくのは苦手です。が、自分はイードとその前職含めてメディアで仕事をしてきたこともあり、実務面はもちろん、その媒体に合ったマネタイズ計画の立案や、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム:記事入稿のWebシステム)効率化や編集ノウハウの共有などテクニカルな面でもアドバイスすることで、他のコンサルとは違う立ち位置での事業化支援を心がけています。
また、とくにtoCの領域では、いかにお客さんを効率よく集めてくるかが課題になりがちですが、そのあたりのノウハウもレスポンスやRBB TODAYといった編集者時代の経験が生きていると感じています。そこが理由でプロジェクトにアサインされることもあるので、イード時代に培ったスキルは応用範囲が広いと改めて感じています。企業のコンテンツマーケティング支援に関しては、案件によっては土本さん (*1) や森さん (*2) といったメンバーにも相談・ご協力いただいていることもあり、今でもイードは非常に強力なパートナーとして一緒に仕事をさせていただいていますよ。
(*1)イードのメディア事業本部長
(*2)イードのメディア事業副本部長
—レスポンス、RBB TODAYでの経験が生きている、というお話をもう少しお聞かせいただけますか?
北島さん: メディアに限らず、今はものづくりの企業でさえもコンテンツを求めている時代です。というのは、単に商品を世に出しただけでは他社と差別化ができないからです。自動車でも、ライバルよりも燃費が0.1km/リットル良いからといって、また馬力が10PS大きいからといって、それが消費者に直に響くセリングポイントではなくなっていますよね。
もちろんエンジニアや研究者は血のにじむ努力で性能の向上に努めているのは承知しています。が、肝心なのはそうしたエンジニアやデザイナーの努力や研鑽も含め、いかにその商品にストーリーを肉付けして興味を持ってもらい、自社サイトに集客し、自社商品への理解と購入へ繋げるかが重要です。そうした一連のコミュニケーションの設計を日頃の業務から自然と考えて・実践しているのが編集者だと思っています。
簡潔にまとめると、
- 読者は何を読みたがっているのか?(ニーズの探索)
- その欲求を満足させるために必要なサービスやコンテンツってなんだろう?(切り口の見いだし)
- どのような伝え方が最適なのか?(デリバリー手法の編みだし)
この3つをイードで学べことは大きいですね。さらにこの3つからさかのぼって、「どういう商品ならば上の①から③を設計しやすいか」という、商品企画やポートフォリオ設計、さらには組織開発といった上流過程へも踏み込めるというのが、編集者からコンサルをまたぐ仕事としての醍醐味と言えます。
この観点は、Web上のコンテンツマーケだけでなく、小売りやサービスという、デジタル領域の外のリアルビジネスでも通用したりするんですね。先日亡くなってしまいましたが、経営学者のクリステンセンが提唱した、エンドユーザーの課題解決を志向する「ジョブ理論」というマーケティング理論がありますが、イードにいるときからまさにこれを身をもって取り組んでいたんだな、と今でも振り返ることがあります。
—イードでの経験が、北島さん独自の武器を作ったということですね!北島さんがイードに入社した経緯もお伺いしてもよいですか?
北島さん: 前前職時代の名古屋の編集プロダクション時代から、レスポンスの元編集長である三浦さん(*1)や当時の副編集長の佐藤耕一さん(*2)とは仕事上の付き合いがあり、記事制作のお手伝いをしていました。その後、東京の実家に戻るに際して転職先を探していたところ、三浦さんからお誘いいただいて入社しました。もう15年近くも前の話です。
(*1)現在はレスポンス編集人でイードの社長室に所属。
(*2)レスポンスの名付け親。現在はフリーライターとして活躍。
—そういった縁があったのですね。北島さんは長年イードに在籍していましたが、印象深いエピソードはありますか?
北島さん: 10年近くいましたので、酸いも甘いもいろんなエピソードはありますね。中でも特に思い出深いものを挙げるとすれば、リーマンショック直後の2009年のデトロイトショーに合わせて、現地の自動車工場で働く労働者や、現地労働組合の幹部の人々に話を聞くことができた一連の企画取材でしょうか。
あの不況で、ビッグスリーの一角であったゼネラルモーターズ(GM)は破産に陥り、クライスラーやフォードもグループ再編を余儀なくされ、スズキやマツダ、スバルなど日本のメーカーの経営にも大きな影響を与えました。これは経営者のみならず、現地の労働者にとってみれば自動車産業の行く末は自らの生活にかかわる死活問題ですから、捉え方はよりリアルで深刻です。
彼らは、父の代々から受け継ぐ自らの仕事に誇りを持ちつつも、ベネフィットと呼ばれる手厚い社会保障が与えられる自分たちが社会から強い批判を受けるなかで、政府や企業に対しての複雑な心中を語ってくれました。社会と経済に大きな影響を与えた出来事であり、いまの新型コロナ禍の社会情勢とも重なって、強く印象に残っています。
—おぉ…まさに今の情勢と重なるところがありますね…北島さんがイードをやめたからこそわかる事や、どういった人ならイードに合うと思いますか?
北島さん: イードを離れて4年あまり経ち、さまざまな事業会社を見て来ましたが、改めてイードの強みと感じるのは「事業判断の速さ」と「それを実行に移せるアセットと行動力」だと思います。高いビジネスセンスを持つ部長クラス以上の事業開発力と、アジャイルでプロダクトに落とし込んでいくエンジニアの技術力、そして高い専門性と熱意をもって日々自らのメディアでコンテンツを生み出していく編集者という3つエンジンが一つの方向を向いた時の推進力は、他の企業にはない強力な長所だと感じています。いまではこの3つに加えて、数多くの事業買収(M&A)案件をこなしてきたことによる、ビジネスの目利き力も加わっているように思います。
ですから、こうしたイードならではの強みを自分のチカラにしていける人、例えば自分のメディアを持ってみたい、得意なジャンルで記事を書いていきたい、営業の現場でガツガツ切り込んでいきたい、といった目的を明確に持っている人であれば、この環境にフィットできると思います。能力やスキルは仕事に対して真摯に向き合っていればおのずと身につくものですし、実際自分も誰かに教えられてというよりも、三浦さんや営業部長だった永島さん(*)ら先輩の姿を見つつ、自分なりにちょっとずつ学んでいきましたので。
イードでは、新しいことには自ら手を上げる、「とりあえず打席に立つ、立ったら後のことはなんとかなる」というくらいの楽観主義的な人の方がいいかもしれません。私もイードでは大なり小なり数限りないミスをしましたが、打席に立った者の失敗には寛容な会社ですし、困ったときに手を差し伸べてくれる人も沢山いる環境ですから。万が一困った時、いったんは自分の中でひとしきり考えることは大事ですが、そこで自信のある答えがでなかった場合は、遠慮なく周囲にアラートを上げることが大事です。
(*1)現在はイードの人事部長。
—イードを離れた後もそんな風に言ってくれてとても嬉しいです…!一方、今の北島さんから見て、イードの課題をどの辺りに感じていますか?
北島さん: これはイード時代の自分自身の反省でもあるのですが、アイディアが先走るあまり、新しい手法やツールの導入や採用が目的化して、「何のために、その施策をおこなうのか?」が問われることなく進んでしまうことがしばしばあったように思います。また、いまのコンサルの立場で考えてみると、事業として新しい投資を行う際の最低限のフィジビリティ(受容性検証)も必要だったのかな、と。
M&A(事業買収)でデューデリジェンス(買収・投資に際して、相手先の企業の価値やリスクなどを検証すること)をしっかりやっていくのと同様に、事業開発というところでも「いまやろうとしているところにどれほどの市場はあるのか、競合はどう動いているか」を定量的なデータで示した上で、「ターゲットは誰なのか」、「需要が潜在的なものだったらどう需要喚起の取り組みをおこなうか?」、そして「イードのアセットをどう使えば、他社にマネされない(少なくとも数年にわたり先行者利益を得られる)価値を作れるか」といった視点がチーム内で議論され、アウトプットとして明示的に示されることが大事なような気がします。
これは、役員や旗振り役の部長クラスだけでなく、エンジニアや現場担当者までが腹落ちして一枚岩になって(=Uniteして)共通のゴールに向けてビジネスを大きく進めていくための必要条件になると思います。いまのイードには人的・技術的なリソースに加えて分厚い顧客基盤とメディアブランド力がありますから、ひいき目なしにポテンシャルはまだまだあると思います。
—耳が痛い…!ですが、この辺りを突き詰めれば、もっとイードは「いい会社」「強い会社」になれるということですね。最後に、これまでメディア業界に身を置いてきた北島さんが思う「メディアの楽しさ」を伺えますか?
北島さん: イードにいたときからしばしば言っていたのですが、編集者は色んな人を繋げるハブの役目だと思っています。普段はぜったいに会えないような大企業の社長や専門家にアクセスして、その話を自分なりにまとめて(=血肉化して)アウトプットできるし、読者とも直接交流してエンドユーザーのニーズ・要望を吸い上げることもできる。編集活動を通じて営業案件に繋がることもあれば、そういったものを取りまとめてビジネスを拡大させながら、メディアの成長も担う、マルチな仕事ができる業種だな、と。自分を成長させる様々な選択肢があるので、よりよい生き方を自身で選べる職業だと思っています。
そういった風に、知的好奇心を満たしながら、周囲を巻き込んで事業を大きくしていくことを同時並行でできる楽しさがメディアの仕事の魅力ではないでしょうか。
—ありがとうございました!
イードでの経験が独自の武器となり、業種が違う現在の職場で生きているという北島さん。実は北島さんも本連載の第二回でインタビューした中田さんと同じく、イードが運営する「Media Innovation」で記事を書いてくれています。
参考:【書評】異質なモノをかけ合わせる編集思考で、脱「おっさん」を目指せ・・・佐々木紀彦『編集思考』
北島さんが寄稿してくれたのはNewsPicks佐々木紀彦さんの著書『編集思考』の書評。「編集という仕事のフレームワークをいかにビジネスで活用するか」がテーマの本書ですが、北島さんはまさしくこのフレームワークを現職でフル活用している、ということですね。イードを離れたあとにも関わらず、イードの課題を伝えてくれたこともそうですが、こういった風に会社という枠組みに縛られずに、ゆるやかな信頼関係の上で一緒にお仕事ができるってとてもいいよなぁ…と、感じています。北島さん、ありがとうございました!